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「夏は、外の暑い空気が地熱で冷やされ、室内に取り込める。
逆に冬は、地熱に暖められて室内に入ってくる。
その一方で'除湿のシステムを稼働させる。
そんなイメージが浮かぶ。
日本の技術力をもってすれば、高いハードルではないでしょう。
地球温暖化防止の『京都議定書』をまとめた国として、日本には、住宅部門での環境対策にもしっかり取り組んでほしいね」。
 ハンスは『無暖房住宅』をコンクリートの集合住宅にも応用しょうと考えている。
イエーテボリの築後五〇年以上のアパートが七〇〇〇戸集中している地区で、彼は、毎年三〇〇戸ずつ外断熱によって無暖房化する再生プランを立てている。
EUの助成金もつき、もう少しでプロジエクトは立ち上がる。
「京都議定書」は、ロシアの批准が不透明になり、実効力をもつかどうか危ぶまれている。
米国はEU主導で進められる環境対策への牽制から議定書を批准していない。
その一方で米国は国内の二酸化炭素排出基準を強化し、住宅分野でも独自の技術開発で地球温暖化に対応している。
 日本は、経団連筋から京都議定書の破棄を主張する声すら上がっている。
米国への追随と、官僚が新たな枠組みをつくつて「天下る」ことへの反発が、その背景にはある。
欧州か米国かとゆれている間に、双方の温暖化対策は進む。
気がつけば日本は一周遅れで取り残され、米国とEUは機が熟したときに手を握る。
そんなシナリオも想像できる。
住宅分野の温暖化対策は、日本が意図的に避けてきたウィークポイントである。
コペンハーゲン経由でドイツのハンブルクに入ると、風は温み、ストックホルムに初雪をもたらした寒気団が雨を降らせていた。
中世からハンブルクは商人中心の「自由都市」として自治権を与えられ、交易で栄えた。
その自主独立の気風が色濃く残る港湾地区「バールブルク」で、巨大な「穀物サイロ」を「オフィスビル」に用途転換(コンバージョン)する「レトロ再開発」が進んでいた。
高さ五五メートルの円筒形の貯蔵庫一二棟が集まる「穀物サイロ」は、一階にレスーランとカフェが入いる上階がオフィスビルになる予定だ。
  サイロが建設されたのは一九三〇年。
日本でいえば関東大震災の復興施策で建てられた「同潤会アパート」並みの「老朽建築物」であるが、既存の建物を生かし、その上に新築階を載せる工事が行われていた。
二〇〇二年の一月に起工し、〇四年春には竣工する見通しだ。
ドイツ屈指の建築設計事務所に勤める上田仁司の絶妙な通訳と解説で、取材に当たった。
現場所長が語る。
「建物の中央にはエレベーターシャフトを新設し、一四階と建物のファサードはほとんど新築になります。
最終的に四隅のサイロが、外観として残る。
新築部分は、仕事を早く進めるために柱も梁もスラブも全部プレハブです。
足場やクレーンがいりませんからね。
鉄筋は入っていませんが、強いモルタルを使っています。
全部壊して、建て替えれば、コンクリートの強さは高められますが、そこまでシビアな状況ではなかった。
ドイツでは、歴史的に古い姿で保存しなくてはいけない建物と、このサイロのように工業的な文化遺産として改修して保存したほうが望ましいものとがあります。
このコンバージョンが成功したら港湾エリアの再開発が、一気に進む。
モデル・プロジェクトとして失敗できないのです。
船舶輸送の衰退で、港は、ひと昔前の活気が失われましたが、文化的な遺産が、数多く残っています。
うまく次の世代に引き継ぎたいですね」。
  大規模なコンバージョンにおいても、隅々まで外断熱施工が行われていた。
「サイロの表情をできるだけ残したかったので、当初、外のコンクリートは古いままにして、建物の内側から断熱しようかと考えました。
そうしたら建築物理コンサルタントが飛んできて『そんなことをしたら結露でとんでもないことになるぞ。
蝦庇責任を問われたら、またゼロからの造り直しだぞ』と言われましてね。
それで外断熱施工のサンプルをたくさん集めて、検討しました。
調べてみると、古い外観を残すことが可能だと分かり、採用したのです」と現場所長。
  天井に冷房用の水が流れる銅の配管が通っている。
エアコンではなく、夏場、この冷却水で室温を「穏やかに」下げる仕組みらしい。
ヨーロッパでは二〇〇三年の夏、猛暑に見舞われた。
フランスでは高齢者を中心に一万人以上の人が亡くなった。
ドイツ北部のハンブルクでも冷房設備の必要性が叫ばれた。
細い銅管に「猛暑」の記憶がにじんでいる。
旅の終わりに、フランクフルトから南東へ七〇キロ「上った」。
南にアルプス山塊が控えるドイツでは、川は南から北へと流れる。
だから「南上」する。
そんな感覚だ。
スペッサールのMとオーデンのMに挟まれて「マイン川の真珠」と呼ばれる「ミルテンプルク」の町が河畔に広がっていた。
  ドイツの伝統的な「木組み建築」が集まる地域だ。
ヨーロッパの家といえば「石造り」と思いがちだが、それは南欧の話である。
北欧でも教会や市庁舎、広場といった公共建築物は確かに石が多く使われているが、一般住宅は木造が中心だった。
南欧と北欧の中間に位置するドイツは、もともと木も石も豊かではなかった。
潤沢な公園緑地は、近代、自治体が懸命にこしらえた社会的資本なのだ。
木の少なかった頃、ドイツでは木にレンガや漆喰を詰めて「木組み建築」が発達した。
貴重な木に彩色し、文字を書き入れ、装飾を施し、ドイツならではの景観が、培われた。
この木組み建築の「国宝級」の価値を持つ建物が、いまもミルテンプルクで、現役のホテルとして使われていた。
一一五八年(日本の平安末期)に建てられた「ホテル・リエゾン」。
究極の再生建築といえようか。
一九二八年生まれの経営者ヨスクは、設計事務所を経営していた建築家である。
一線を退き、夫人とホテルの運営に取…んでいる。
 なぜ、築後八五〇年も経たホテルに、彼は、こだわりつづけてきたのだろう。
チェックインをした後に、太い木の梁と漆喰で囲まれたホールで話を聞いた。
「ここは、マリア・テレジアをはじめハブスブルク家の人々、バイエルン州知事、作家のゲーテ、作曲家のリヒャルト・シュトラウスなど、大勢のVIPが、ミルテンプルクの賓客として迎えられた宿でした。
一九六四年頃から、わたしは仕事でレンガ積みの修復にくるたびに何とか、永く大切に使えないかと考えるようになった。
建築家としての本能でしょう。
しかし七〇年、この建物で市主催のパーティーが開かれたとき、一階の床が落ち、屋根材が壊れて青空が見えた。
危険な建物だということで、即刻、使用禁止。
持ち主が倒産して、建物は銀行の管理下に置かれました。
銀行は修復か新築か決めあぐね、建物をオークションに出した。
それをわたしが落札したのです。
平日は設計事務所で働き、土日にここに来て、自分でレンガを積んで、修復しました。
経済的には苦しかった。
一階のレスーランを貸して、一〇年かけて基礎的な修復を終えましたが、まだ建物の真ん中にエレベーターシャフトを造れず、ホテルは開業できませんでした」。
 建物の再生途上で最も苦労したのが、解体物の処理だったという。
いかにも環境保全を徹底するドイツらしい。
ヨスクは語る。
「再生するには、朽ちた部分を取り除き一度、躯体の骨組みにしなければなりません。
解体した廃材を処理するのに二〇年以上かかりました」。

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